現地調査報告
Part 5 2006年 6〜7月
始めて聞き取り調査を体験
事務局 井上由香
6月19日から7月22日まで主にマニラで活動しました。
今回、私はPNLSCスタッフとして初めて現地調査を体験した。東京の事務所では多くの陳述書を目にしてきたが、直接、日系人から話を聞き、自分で陳述をとるという作業は大変貴重な体験であった。以下に、私が聞き取りをした66歳の2世の方をご紹介する。聞き取りはマニラ首都圏ケソン市にあるマニラ中部ルソン日比協会事務所にて実施した。
「私はクラスメートに日本人と知られており、よくいじめられました。それで私はよく彼らとけんかしていました。」というキシモトさん(66歳)は、夫亡き後の現在、長女とともに暮らしている。1920年代、30年代に生まれた他の2世に比べ、彼女からは日本人である父親の様子について聞き出すことができなかった。それは1940年、開戦直前生まれの彼女がまだ幼少であったときに父親が軍に徴用され、そのまま姿を消してしまったため、彼女に父親の記憶がほとんどないためである。小さな声で語ってくれたキシモトさんだが、「父親はどんな人だったの?」「覚えている日本語はあるの?」という私の問いに、首を横に振るばかりであった。彼女のように幼少時、父親と別れることになった日系2世がこのフィリピンにどれだけいるのだろうかと思うと、やるせない気持ちになった。
今なお取り残されているフィリピン日系人の多くは、身元判明につながる証拠書類がほとんどないのが実情である。その中でも私たちができることは、フィリピン日系人一人ひとりの言葉に真摯に耳を傾け、彼らのアイデンティティーを回復するために全力を尽くすことだけであると感じた。(Inoue, Yuka)