現地調査報告

Part 10 2022年4月3日~6月7日
地理的、経済的、歴史的な背景の厳しさを実感
代表理事 猪俣典弘

今回のフィリピン出張では、ダバオとパラワンでフィールド調査を実施しました。

5月 22、23 日、ダバオで橋本ミラグロスさん、小原パトリシアさん、内村マリアさんを訪問しました。3人とも、父の戸籍は見つかっている人たちです。父親と同じ日本国籍をとりたいというかすかな希望、望みを、長い間心の奥底に持ちながらも、行動に移せない事情がありました。それは経済的なこと、日系人会との関係、家族の同意の問題など複雑に絡み合っていましたが、直接会って話すうちに、澱のようにたまった複雑な思いが氷解し、諦めと不安が期待と信頼へと変わっていきました。


ひ孫と並ぶ内村マリアさん

PNLSC は発足時、父親の身元未判明の2世救済が優先事項となっていたため、身元判明2世の国籍回復支援は後手に回ってしまいました。身元判明家族の3世は定住ビザを取得して日本に行き、2 世の国籍問題が解決しないまま、家族の日系人会離れが進んでしまったのです。外務省委託調査のおかげで、ここ数年、こうした2世の掘り起こしが進み、あらためて2世の国籍回復に対する希望を確認することができています。疎遠になり年老いた2世とその家族に会い、あきらめかけていた国籍回復について説明し、励ますことの大切さを実感しました。日本から来たというと、私の訪問も喜んでくれました。小原さんは幼少期に父から教わった日本の歌を何曲も聞かせてくれたのです。歌詞、音程も歌詞も明瞭な彼女の記憶力には、感動を覚えるほどでした。

パラワンでは、州都プエルトプリンセサでの集まりの後、スタッフの案内で島を北上し、10 人の残留2世を訪ねました(NHK も同行取材)。プエルトプリンセサから陸路で北へ7時間、さらにボートで4時間のリナパカン島ではモリネ姉妹を訪問。僻地であるためマニラから電話も通じにくく、一時期連絡が取れなくなっていたのですが、今回は3人姉妹のうち2人に会うことができ、日本国籍の希望を確認することができました。


リナパカン島のモリネさんのご自宅で

さらにそこから4時間ほど北上したコロン島では、ユハラ(ウエハラ)姉妹とアカヒチサムエルさんを訪問。サムエルさんには、父の名前が「カメタロウ」であることをあらためて確認できました。また難航していたサムエルさんの出生証明書の遅延登録の
方法についても相談しました。

彼らは、父親の身元は未判明で、戦中や戦後の混乱で出自や父が日本人であることを示す書類がない人たちです。東シナ海に面するパラワンは、ひとたび天候が悪化すると一週間は移動が不可能となります。身元捜し、国籍回復が遅々として進まなかったのはこうした地理的、経済的な背景があったためであることを、身をもって理解しました。(Inomata,Norihiro)

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