現地調査報告

Part 8 2006年10月30日〜12月22日

日系人のアイデンティティを引き出し、日本社会に訴える。

紫垣伸也

 2006年10月30日〜12月22日までフィリピンに出張、主にダバオ市にあるフィリピン日系人会(PNJK)事務所を拠点に、フィリピン残留日本人を対象にした現地調査を行いました。調査の目的は、戦後60年以上もたち未だ身元が判明しないフィリピン残留日本人2世(以下2世)の身元捜しに必要な、本人たちの証言や証拠を収集するためです。
 戦前、戦中に生まれた身元未判明2世は高齢で、人によっては体力が衰え、自由に身動きができない状態の方も多数いる。すでに亡くなられた方々も数え切れないほどいます。こういっている間にも、一人、また一人と残留日本人の灯は消えつつあります。

証拠書類の重要性

 2世のアイデンティティを証明するために、彼が日本人移民(1世)と親子関係にあったかを示す証明書が重要です。しかしながら身元未判明2世の多くはそういった書類を作成するには困難なインフラの整備されていない山中や、現代の暦の概念がない村や地域で生まれ育っています。または折角書類を作ったのに第二次世界戦中、戦後の混乱の中で紛失してしまったという方もいます。
 しかし、今の日本(日本人)の基本的な考えとしては、自己のアイデンティティを法的に認めさせるためには、本人が大声で「私は日本人です!」と叫ぶよりも、本人を証明する役所発行の証明書等(以下書類)を提示するほうが圧倒的に影響力があります。声を上げて叫ぶことは、多少元気な人なら誰にでもできることです。対して公式の書類は自分1人では作ることができず、本人を証明する人が複数必要となり、よって本人の主張するアイデンティティがより信憑性の高いものになってきます。「書類は本人よりも強し」ということでしょうか。理屈としてはわかります。それだけ書類に重点を置き、厳密な管理システムのおかげで日本で生まれ育った私の様な人間はボーっとしていても自分の日本人としてのアイデンティティが保障されているわけです。

まずは本人ありき

 しかし問題は、書類を作れる環境にいなかった日本人はどうなるか、ということです。今回の面接対象2世はこのような環境におかれた(ている)方々です。何十年も前の両親の歴史、2世の生い立ちを詳細に思い出しながら証言してもらい、そこから彼らの日本人性をくみだします。時には戦争中のつらい記憶なども呼び起こしてもらわなければならず、聞き取る側としてもつらいときがあります。でも、そこに客観的にも彼らのアイデンティティを納得させるだけのものが存在するのであれば、それを引き出していき、「本人は書類よりも強し」ということを日本に訴えていきたいです。
 フィリピンで現地調査を行い、日本でその調査結果を日本に訴えるという立場にあるPNLSCスタッフの活動のメリットを大いに活かし、フィリピンの歴史的背景を知らない現代の日本のシステムに食い込み、残留日本人と私たちの未来を切り拓くためにこれからも力を尽くしていきたいと思います。